ここでは訪問診療や特殊義歯などの症例について紹介しています。
口腔内診査と問診の結果、右側最後臼歯の咬合不良が原因と判断(白矢印)。最後臼歯の咬頭嵌合位が得られていないため、顎位が偏位。その結果、顎関節の不調が発現したと考えられる。上下クラウンを新製(白矢印)した結果、顎関節の不調が改善した。
インプラント治療終了後、上顎の総義歯の再製を希望。旧義歯の人工歯は破損しており、床も何度か破折し修理された後がみられた。吸着はさほど悪くはないが、体調により嘔吐反射がひどいことがあり、義歯を入れておけない時があるという。そこで、無口蓋義歯による義歯の新製を行うこととした。新義歯は口蓋を覆わないチタン床義歯とした。総義歯の無口蓋義歯は十分な吸着を得ることが難しい。残存歯がある場合、アタッチメントにより義歯の吸着を補うことができるが、残存歯のない総義歯では床の吸盤効果と頬筋や口輪筋のサポートを効果的に得る必要がある。新義歯の吸着は良く、片手による義歯の離脱はできないくらいである。
嘔吐反射の強いケース。精査の結果、上顎は保存可能歯を磁性アタッチメントに変え、オーバーデンチャーを作製することとした。本症例は嘔吐反射が強いため、無口蓋デンチャーとした。本来、無口蓋デンチャーの作製は、技工士の熟練もさることながら術者の高度な印象採得技術も要求される。口蓋部分の吸盤効果が薄れるため、口腔周囲の筋や舌、頬粘膜などの圧力がニュートラルになるゾーンを積極的に活用したり、ポストダムの付与も特殊な形態にする必要がある。しかし、本症例のように残存歯に磁性アタッチメントを用いることができれば、比較的作製は簡単である。ただし、アタッチメントを用いることができても、義歯の安定に用いられる全ての要件を最大限に義歯に付与するということは基本と考える。 写真は、義歯作製後15年を経過しているが、義歯および残存歯ともに良好に管理されている様子がわかる。
精査の結果、下顎右側第一大臼歯遠心根と左側犬歯のみ保存可能と判断。 上顎は元から金属床(白金加金)の総義歯だったが、床は小さく、十分な吸着を得られていないため、再製とした。上下顎とも金属床(チタン)の総義歯を基本とし、十分な吸着を得るために義歯辺縁を封鎖できるように慎重に筋形成を行った。義歯は機能させた時の安定が最も重要であるため、静的な印象採得ではなく、動的な粘膜の状態を印象採得する必要がある。また、高度に吸収した顎堤の場合には、口腔周囲の筋や舌、頬粘膜なとの圧力がニュートラルになるゾーンを確保し、顎堤のみの維持ではなく、解剖学的あるいは生理学的な維持力を積極的に活用すべきである。小さく安定の悪い義歯は、機能的でないだけではなく、顎堤の吸収を促進させてしまうので、注意する必要がある。 下顎残存歯には、磁性アタッチメントを用いたため、義歯の安定性はさらに向上した。 写真は、義歯作成後6年が経過しているが、顎堤の吸収は見られず、また咬合も安定しているため、人工歯の摩耗もほとんどみられない。
下顎右側の遊離端欠損部補綴を局部床義歯による治療で提案したところ、舌側にバーが通ることと鉤(入れ歯をとめる金具)が見えることを極力避けたいと希望。現在であればインプラント治療を第一選択と考えるが、当時(90年代前半)はインプラント治療はルーティン化しておらず、コーヌスデンチャーを選択。コーヌスデンチャーは支台となる歯に内冠を被せ(写真左)、外冠を前装してデンチャーの鉤とする(写真右)ものである。丁度、茶筒のような形になり、内冠と外冠の摩擦効果により義歯の脱離を防ぐ。通常の鉤と違い、内冠の角度(コーヌス角と呼ばれる一定の角度)や支台の方向を一定にしなくてはならず、また、着脱力(維持力)の調整に特殊な方法が必要となるため、テクニックセンスティブな義歯である。